春蘭  季節の花に人生を重ねて

季節の花
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天禄3年(972年)、平安王朝が雅やかに栄えていた時代、円融天皇は洛北嵯峨野の野宮に蘭を植えしめたと古い記録にあります。天皇即位の際に、未婚の皇女の中から、伊勢皇大神宮にご奉仕する齋王が新しく選ばれますが、野宮はその齋王が伊勢に赴く前の一年間を潔斎して籠もられる地です。清浄の皇女に蘭ほど似つかわしい花はありません。

清楚で気高い花、かぐわしい香り、蘭は自然の神秘を漂わせています。深山に自生したものを採取する以外に、実生で育てることが出来ないからです。そのため、古来より貴人が愛惜する花となりました。キク、梅、竹と並んで、四君子とも呼ばれてきました。

ランの種類は世界に1万5000種類あると言われています。人工栽培が可能で、花屋の店頭に並ぶのはいずれも西洋種です。洋蘭は華美な色合いを鑑賞するのにぴったりです。対照的に東洋の蘭は、花の清々しさと気品を愛でます。春蘭はその東洋蘭の代表格です。

白花の系統を「源氏香」、赤い花系統を「平氏香」と呼び、その香りの中に身を委ねる薫浴は、春の豪華な遊びです。

「薫浴や この世の幸よ 春蘭展」河野照子

東洋では、良友との交わりを「蘭契」といいます。

部屋に蘭の花があれば、芳香によって心が清められることを例えに、良き友を得ることは自らを高める大切なこととされてきました。人生の尊さを知る人は良友を選びます。

春蘭を実生で栽培できない理由は、蘭菌と言われる特別な菌との共生がないと育たないからです。春蘭の幼い芽は葉緑素がなく、自らの力で栄養分を摂取することができません。寄生した蘭菌が地中の腐葉を分解して栄養と変え、芽の生育を助けるのです。

生き物は一人で生きているのではなく、成人するまでの間にどれほどの恩をうけているのでしょう。

春蘭を育てる「乳母」のような蘭菌は、人で言えば、育ての親とも言える恩人です。

今日、世を生きられるのは諸恩あってこそ。諸恩に感謝するためにも、自分は他人の役に立つことが大切なのですね。

本日も「善根を詰めますように」祈り、行動したいと思います。

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